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会場の様子をいち早くお届けします!
『石田徹也展』 ギャラリートーク 作品解説その①
『石田徹也展』開催中です。
5月23日は石田徹也さんの命日でした。
たくさんの方にご来場いただきました。ありがとうございます。
会期はいよいよ今週 5/27(日)までとなりました!


さて、ギャラリートークレポートの続きをお伝えします。(前回は>>◆こちら

*ギャラリートーク
【日時】5月13日(日)11:00〜
【会場】三菱地所アルティアム(イムズ8F)
【話し手】堀切正人氏(2012年3月まで静岡県立美術館・上席学芸員を経て4月より常葉大学教育学部准教授に就任)

『石田徹也展』 ギャラリートーク 作品解説その①_f0023676_10122083.jpg


(以下は堀切氏のギャラリートークから一部抜粋・編集したものです)
『飛べなくなった人』
東京のガ−ディアンガーデンで“ひとつぼ展”という展覧会のコンクールをやっています。ファインアートというよりはイラストレーション、サブカルチャー的な分野のコンクールで、それに応募して見事にグランプリをとりました。グランプリをとると一年後に個展をひらかせてくれるという特典があります。グランプリをとった作品のひとつが『ビアガーデン発』という作品で、一年後の個展の為に描いた作品が『飛べなくなった人』です。個展のタイトルが”飛べなくなった人”でしたので、石田徹也自身この作品が一番力の入った作品といえると思います。


『石田徹也展』 ギャラリートーク 作品解説その①_f0023676_1014052.jpg
▲『飛べなくなった人』(1996年)静岡県立美術館蔵 

遊園地の飛行機の遊具とサラリーマンが合体しているという作品です。見た目はグレーの色調で暗い感じがします。遊具もぼろぼろになってしまってとても子供達が乗って楽しく遊べるような状態ではありません。そこにうらぶれたサラリーマンが合体しています。下書きのメモに「飛びたくても飛び立てない」とあり、社会のしがらみから離れて自由自在に思うがままに生きていきたいと思うのに、社会や人間関係にからみとられて飛び立っていけない。その中で卑下して疲れていくというサラリーマンのしがない生態を描いています。言葉にすると陳腐ですが、そういう状況を風刺した作品です。

一年前に応募した作品とはプロペラ機に合体するというところが図柄的には良く似ていますが、一年の間にずいぶん違う印象になっています。『ビアガーデン発』はちゃんと助けてくれる人が両脇にいます。赤くなってほんのりと酔っ払っている人を肩を貸して助けてくれて、まだ明るい感じがします。会社であったうさばらしをして飲んで酔いつぶれていますが、まだ家まで支えて送ってくれている人がいます。表情もまだにこっと笑っています。苦しいながらも皆で飛んでいこうよという前向きな感じが一年前にはします。ところが一年後に描かれた『飛べなくなった人』は助けてくれる人はいません。隣にもう一機ありますが、誰も乗っていなくて一人で呆然としています。顔も笑っていませんし、目もどこを見ているか分からないようになっています。
一年の間に石田さんの中でどういう変化があったのか想像するしかありませんが、非常に厳しく自分を追い詰めていく姿勢が強くなったのではないかと思われます。この賞をとったことによってプロの絵描きになると決めたのだそうです。就職活動も一切やめて、絵を描くことに専念されたということですので、非常に真剣に一年間で絵筆にかける想い、社会を見つめる目が厳しくなったのではないでしょうか。
また、この絵で面白いのは、飛行機の翼に描かれているマークがミッキーマウスのパロディだということです。調度このとき1990年代初めというのは東京ディズニーランドがオープンしたころです。世の中はバブルがはじけて、右肩下がりになっていくときにディズニーランドは大繁盛していました。一方、地方の遊園地は経営難になってどんどん潰れていっていました。ここで描かれているのはそういう社会背景も踏まえているのではないでしょうか。地方のうらぶれた遊園地としがないサラリーマン、就職氷河期など苦しい時代の社会背景を反映しているのです。しかし、非常に厳しくて、まじめで暗い絵ではありますが、笑えるユニークに感じる部分もあります。物に合体した人という構成が漫画チックに感じ、重たく言うとシュールレアリスティックというのかもしれませんが、シュールというよりは着ぐるみをきているようなお笑い番組のバラエティに出てくるようなイメージでもあります。社会を深刻に捉えるというよりはちょっと捻って面白おかしく見せながらアイロニカルに表現することを目指したのです。
このことについては、創作ノート(会場内に一部を展示)にも書かれてあります。生きることのつらさをストレートに出すのではなくギャグとか皮肉を込めて描きたいとあります。
つらいことを少し捻って出すことによって、逆に観る人にいろんなことを考えさせるという絵画的、表現的な効果を目指していたようです。
一年前と一年後の作品を見比べて鑑賞していただくと面白いのではないかと思います。




作品解説を聞いて、鑑賞するとまた違った見方もできて面白いのではないでしょうか。
会期残りわずかですのでお見逃しなく!!



・・・・・information・・・・・
「石田徹也 展」 —今を生きる、僕らの姿
◆会期 開催中 ~ 5月27日(日)
◆入場料 一般400円、学生300円 
再入場可、高校生以下無料

by artium | 2012-05-24 10:39 | 石田徹也展


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